記事一覧

神戸新聞、コラム正平調書き写し

阪神は今年もやれるか。オリックス
のエースは誰なのか。三寒四温
で春が近づく3月。プロ野球も29日
の開幕に向けてオープン戦が続き、
ファンの期待も膨らむ◆シーズンオ
フに発注したグラブをキャンプで使ってみ
た選手から、新たな注文がメーカーに届く
時期でもある。宍粟市の山あいにたたずむ
ミズノテクニクス波賀工場も、毎年1~3
月ごろに生産のピークを迎える◆守備の名
手をたたえるゴールデン・グラブ賞に輝い
た阪神の大山悠輔選手、広島の菊池涼介選
手らが使うグラブもここで作る。「グラブ
マイスター」として職人集団の頂点に立つ
岸本耕作さんは、イチローさんのグラブも
手がけた◆不便な立地に思えるが、中国道
に比較的近い上、革の産地である姫路、た
つの市に接するなど利点も多いという◆ミ
シンやプレス機などの音が響く工場内は、
工程ごとに分かれている。細かい注文用紙
に沿って茶色や赤、黄色など色とりどりの
革を機械で切断し、縫い合わせ、ひもを通
す◆「(グラブが)へたれてくると『顔』
が悪くなってくる。『顔』のバランスがす
ごく大事」。工場を訪ねたイチローさんの
言葉だ。素手に近い感覚で。一部を動かな
くして。選手の独特な感性に応えミリ単位
で整える技がプレーを支える。2024・3・10

神戸新聞、コラム正平調書き写し

「平和とは、日常の生活が続けられ
ること」と書くのは、世界各地の戦
場を取材してきた報道写真家の石川
文洋さんだ。2月、能登半島の被災
地を訪れた際の記事をこう結んでい
る。「(能登には)日常の生活がない、つ
まり平和がない」◆能登で地震が起きて2
カ月になる。場所によって違うのだろうが
発生1週間、1カ月、現在と被災地から届
く写真を見比べても、ほとんど変わりがな
い。日常の生活が戻る気配がない。どうし
たことか◆崩れた家もゆがんだ道路もその
ままのところが多い。きょうの朝刊23面の
記事では、現地を訪れた本紙記者が「2カ
月、ただ日が過ぎただけやった」という肉
声を伝える◆阪神・淡路から2カ月の頃は
つち音が響いていた。鉄道が少しずつ動き
出し、仮設店舗で商いが始まる。紙面では
こんな見出しも。「ボランティア、延べ1
00万人」◆あまりの多さに混乱もあった
ものの次第に現場で調整が進んだ。そして
いろんなアイデァが生まれる。足湯がそう
傾聴ボランティアがそう。片付けや炊き出
しだけでなく、ゆっくり話を聞くことが心
のケアに大事と気付かされた◆もっと人を
被災地へ。「能登はやさしや土までも」。
復旧、復興、何より心根のやさしい人たち
を「心災」から救うために。 2024・3・1

神戸新聞、正平調書き写し

米国の心理学者が2008年に著し
た「だまされやすさの年代史」は、
「私たちがだまされる理由を考察し
た最初の本」と紹介される。その最
終章は「人は年を重ねて賢くなるに
つれてだまされにくくなる」と説く◆だが
その考察は今の日本を覆う現実とは異なる
ようだ。昨年、兵庫県内の特殊詐欺被害は
過去最多の1224件、被害総額はやく19億
9千万円(いずれも暫定値)に上った。被
害者の多くは高齢者だ◆ちなみに「だまさ
れやすさー」の著者自身も刊行と同時期に
巨額の投資詐欺被害に遭った。どんな知識
も経験も、手の込んだ虚構にいとも簡単に
すり抜けられてしまう◆手口は広く知れ渡
っているのに、被害は後を絶たない。常に
だまされる可能性があると認め、非通知の
番号には応答しない。常時留守番電話に設
定する、必ず誰かに相談するーなどの対応
を強くお勧めする◆警察は瀬戸際で送金を
食い止める「水際対策」を強化するが、詐
欺の手口は進化を続ける。今後はAI(人
工知能)を使ったフェイクの音声や画像に
よるなりすましにも警戒が必要だ◆特殊詐
欺がはびこる根底には、テクノロジーずく
めで複雑化した社会に生きる人間の孤独と
不安があると感じる。人間の弱さに付け込
む特殊詐欺との闘いは続く。 2024・2・25

神戸新聞、正平調書き写し

春の到来を待ちわびている人なら、
それぞれの“目印〟を持っているだ
ろう。わが家の場合は鉢植えの木瓜(ぼけ)
である。一日に少ししか日が当たら
ない場所にあるから、育ちはゆっく
りマイペース◆それでも固く縮んでいた茶
色のつぼみが急にグリーンピースのような
淡い緑にふくらんだかと思うと、先日、朱
色の花が一気に開いた。ああ、今年もお変
わりなく。自然の摂理に従うまじめさに感
謝の念がわく◆播磨の海沿いに暮らす人な
らイカナゴのシンコ(稚魚)を炊く甘辛い
香りが春を告げる印ではなかろうか。鼻先
につんと蘇(よみがえ)る◆きのうの本紙朝刊を読んで
悲しい気持ちになった。1面トップは「淡
路島ノリ5500万枚廃棄」、その下には
「シンコ不漁『最も厳しい』」。春を迎え
る高揚感に水を差されたような。収穫の最
盛期だったノリ廃棄の原因は、漂流してい
た黒い油の塊だ。生産者の無念を思うと胸
がはりさける◆シンコの不漁予測は8年連
続。例年なら2月末ごろに解禁されるシン
コ漁の短縮は確実だろう。「きれいな海」
から栄養豊富な「豊かな海」へ、地道な努
力はまだ途上◆〈くぎに炊く祖母の大鍋春
来たる〉(阿曽宏之)。ふるさとを離れた
子や孫、全国の知人に送る人は多い。待ち
わびている人が今年もきっと。2024・2・21

神戸新聞、正平調書き写し

梅の便りが届くようになった。本紙
の地域版を繰ると紅白の鮮やかな花
が目に入り、香るようだ。近づく春
は、別れと出会いの季節。学校で職
場で友との別れを惜しんでいる時期
ではないだろうか◆「友情」と口にすると
青臭い感じもするが、この二人の関係はこ
れ以外にどんな言葉が当てはまるのだろう
と思ってしまう。作家、陳舜臣さんと司馬
遼太郎さんである◆陳さんが1941年に
大阪外国語学校(現大阪大学外国語学部)
に、司馬さんは翌42年に入学している。卒
業後、それぞれ違う道を歩み始めたように
見えたが、引き付け合うように歴史を舞
台にした小説家へ◆「対談中国を考える」
(文春文庫)で陳さんは「司馬氏は善(よ)く歌
う者であり、私は彼の歌の勢いにのってい
ささか声を継ぐことができた・・・」と対談の
成果を語っていた◆神戸華僑歴史博物館で
開催中の特別展では、東京への転居を考え
る陳さんに、司馬さんが「神戸、関西から
離れるのは賛成できないなぁー」と語った
と紹介されている◆きょう18日は陳さんの
100回目の誕生日。天上で杯をくみ交わ
し、紫煙をくゆらせるー。そんな空想が膨
らむ。2人の命日は桃源忌、菜の花忌と呼
ばれる。色鮮やかな桃に、一面に広がる菜
の花。春が似合う二人である。2024・2・18

神戸新聞、正平調書き写し

文豪森鷗外は1922(大正11)年
7月9日、60歳で命を終えた。その
3日前、東京大学医学部以来の親友
賀古鶴所(かこつるど)を呼ぶと、遺言を書き取ら
せた。〈余ハ石見(いわみ)人「森林太郎」トシテ
死セント欲ス〉◆石見国(島根県)津和野
に生まれ、ドイツに留学し、陸軍軍医総監
に上り詰め、日本近代文学の礎を築いた
その人が世を去るに当たって望んだのが、
先の一文である◆遺言に従い、墓には文名
も位階勲等もなく、「森林太郎墓」とだけ
彫られている。亡くなるときはただ一人、
生まれた時の人間としてー。そうした祈り
にも似た思いに触れるからか、切々と胸に
迫るものがある◆名前とは、最後に残る、
自分がこの世にあった証にほかならない
のだろう。それは、この男にとっても同じ
だったのか。連続企業爆破事件で指名手配
され、約半世紀も逃亡を続けていた霧島総
容疑者のことだ◆ひっそりと「内田洋」と
して生きてきた男は、末期がんで死亡する
4日前、「最期は本名で迎えたい」と霧島
を名乗った。DNA型鑑定でも本人の可能
性は高いという◆鷗外が言うように「死ハ
一切ヲ打チ切ル重大事件」である。告白は
罪責感の故だと思いたい。であれば、彼に
はほかにも語るべきことがあった。過去の
過ちも語らねばならなかった, 2024・2・15

神戸新聞、正平調書き写し

ロンドン南部のまちで昨年暮れ、道
路標識が盗まれた。一時停止を求め
る「STOP 」の表示に軍事用のド
ローン3機が描かれていた。正体不
明の芸術家、バンクシーの最新作で、
ある◆犯人は逮捕され、作品は行方不明の
ままだが、パレスチナやウクライナで激し
い砲撃が続くなか、反戦を訴えるメッセー
ジがより世界に広がったのだから不思議な
人だ◆そのバンクシーが昨年2月14日のバ
レンタインデーに発表した作品がある。エ
プロン姿の女性が冷蔵庫を倒し男を閉じ
込めている。英国メディアによると、女性
への暴力と闘う1950年代の専業主婦ら
しい◆愛を伝え合う日になぜと疑問に思う
が、そこがバンクシーならではの風刺なの
だろう。勝手ながら解釈すると、バレンタ
インで互いに愛を告白できるようになった
のは、女性の長い闘いの歴史があったから
だと◆時代は進んで、思いを寄せる男性に
女性が贈っていた日本のバレンタイン文化
は「義理チョコ」「家族チョコ」「友チョ
コ」と多様化した。「今年ももらえなかっ
た」と惨めな時代をすごした身にはありが
たい◆ところで、わが家の冷蔵庫の奥の方
に数日前から高価そうなチョコレートの小
箱がある。私は確信している。これは妻の
「自分チョコ」に違いないと。 2024・2・14

ちょっとわがコラム↑の記事でココ↓

私は確信している。これは妻の「自分チョコ」に違いないと。

ふむふむ、経験あり、旦那に贈るふりして隠れて食べちゃう(笑)