江戸時代の僧侶、良寛の詩に〈花、
無心にして蝶(ちょう)を招き/蝶、無心にし
て花を尋ぬ〉がある。蝶を人に置き
換えて読んでも、意味は通る。花は
人に見られるために咲くわけではな
いが、それでも人は不思議と花に引き寄せ
られる◆「見頃」の見出しに引き寄せられ
て、連休中の本紙地域版をめくった。ツツ
ジ、アヤメ、フジ、シャクナゲ…。公園の
花、お寺の花。鮮やかな花あれば、かれん
な花も負けじと休日の紙面に色を添えてい
た◆新しい友人、新しい仕事と心せわしい
春が過ぎて、暦の上ではもう夏という。疲
れた羽をしばし休ませてくれる花のように
カレンダーを彩っていた大型連休も終わっ
た◆きのう、まちを歩く人の足取りが気だ
るそうに見えたのはこちらの気のせいとも
思えない。おっくうな通学、通勤の道中、
前日の雨に洗われてきらりと光る草花にち
ょっぴり力をもらったという人もあるだろ
う◆〈よかったなあ 草や木が/どんなと
ころにも いてくれて/鳥や けものや
虫や 人/何が訪ねるのをでも/そこに動
かないで 待っていてくれて〉。まど・み
ちおさんの詩「よかったなあ」の一節にあ
る◆草木が一番人に優しいのはひょっとし
て、風薫る今の季節かもしれない。「よか
ったなあ」。朝の呪文とする。2025・5・8