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神戸新聞、コラム正平調書き写し

フランス革命の夜のこと。オースト
ラリアに逃亡しようとした国王ルイ16
世と王妃マリー・アントワネットは
国境付近であっさり見つかった。ぬ
かりなく変装していたはずなのに、
なぜ◆理由は国王にも思いがけなかったか
もしれない。フランスの紙幣に印刷された
自分の肖像画が隅々まで知れ渡っていたの
だ。有名なヴァレンヌ事件のエピソードで
ある◆世界各地のお札に肖像画が描かれて
いるのは、愛国心を高め、国の歴史に親し
むためでもあるが、それ以上に大きな理由
は偽造防止にある。人の顔を見分け、少し
の違いにも気づく人間の能力は、それほど
高い◆慣れ親しんだお札の顔がきょうから
新メンバーに代わる。子供の頃、歴史の
本で見た記憶しかない3人だから偽造に気
づくには時間がいるが、最先端の偽造防止
技術が駆使されているそうだから、今や人
の目はあまり期待されていないのかもしれ
ない◆カードや電子マネーで支払いをする
人が増え、お札の出番はいずれなくなるー
そう心配していたら、日銀神戸支店長に就
任した別所昌樹さんが面白いことを言って
いた◆その場で支払いが完了し、停電や通
信障害の影響もない。だから「紙対応は神
対応」と。渋沢さん、津田さん、北里さん
とも長い付き合いになるかな。2024・7・3

神戸新聞、コラム正平調書き写し 末尾に我がコラムURL記入

プラスチックのお皿に盛られたのは
スプーン1杯分のおかずと少しのご
はんだけ。内部告発された園児の給
食の写真に驚き、「あんまりだ」と
怒りの声が全国に広がった。7年前
に姫路市の市立認定こども園で起きた補助
金の不正受給事件を覚えている人は多いだ
ろう◆食費を削る。職員を水増しする。市
に虚偽の申請をする。そんなことができた
のは「ものいわぬ」幼い園児と、預け先の
ない保護者の弱みを人質にしていたからで
ある◆食事は数切れの魚肉ソーセージとも
やしの炒め物、茶わん1杯のごはん...。愛
知県内を中心に障害者のグループホームを
運営する福祉サービス会社「恵めぐみ」が事業者
の指定を取り消されたのも構図は同じ。手
厚い補助金を"追い風〟に事業を急拡大さ
せた◆職員数や勤務時間の水増しも次々発
覚した。利用者を「ものいわぬ」存在と見
くびっていたのなら、福祉に関わる資格は
ない◆急拡大の背景には、かって隔離され
ていた障碍者施設を地域に移しともに暮ら
す社会を目指す国の政策がある。私たちが
時間をかけて積み上げた理想が踏みにじら
れた◆山の隔離施設に何十年も暮らしてい
た人に聞いたことがある。地域の中で住み
たいですか?「山いっぱいより人いっぱ
い」。明るい声がよみがえる。2024・6・29

↓は、以前私が日記に書いた物上から4つ目にタイトル5分報道カメラマン
https://torebi.sakura.ne.jp/cgi-bin/diarypro228/diary.cgi?page=7

神戸新聞、コラム正平調書き写し

会社への道すがら、いつも楽しみに
している小学校の花壇がある。一年
を通じて季節の花を楽しませてくれ
るのだが、今年のアジサイはふびん
で仕方がない。この季節、青と赤の
みずみずしい濃淡を描く花たちが、どこか
くすんでいる◆何しろこの暑さだ。まだ梅
雨に入ってすらいないのに、梅雨明けのよ
うな気温が続く。「暑いよ~、のどが渇い
たよ~」と、アジサイのうめき声が聞こえ
てくるような◆きのうは朝来市の和田山町
で35度以上の猛暑日となり、豊岡、西脇、
姫路、神戸、洲本など兵庫県内の各地を含
め30度以上の真夏日は全国400カ所に迫
った。まちを歩けば、雨傘の前に日傘の花
が咲いている◆近畿の梅雨入りは例年なら
6月6日ごろ。昨年は早めで5月29日ごろ
だった。今年は、梅雨前線が北上する今週
末が梅雨入りのタイミングーと気象庁は週
のはじめに予想していたのだが、それもず
れ込むらしい◆心配なのが熱中症だ。まだ
夏の準備をしていない人もいるだろう。わ
が家は昨晩、全員が布団を蹴っていた。6
月は例年、蒸し暑さに注意だが、今年は
高温に警戒を◆〈あぢさいや一かたまりの
露の音〉(正岡子規)。雨にぬれたアジサ
イは色っぽく、水滴を抱くとつややかに光
る。そんな景色を早く見たい。2024・6・15

神戸新聞、コラム正平調書き写し

「酒が入ると芸の話しかせん」。桂
米朝さんがラジオ番組「米朝よもや
ま噺」(ばなし)でそう評したのは弟子の桂枝
雀さんだ。例えば「サゲとは緊張の
緩和である」。うまいこと言うと師
が応じ一杯、また一杯◆付き合いながらじ
っと聞いていたのが、桂ざこばさん。何と
なく光景が目に浮かぶような。米朝さんを
父と慕い、枝雀さんを兄ちゃんと呼んだ。
そのざこばさんの訃報が届いた◆15歳で弟
子入りの際、「その辺の高校よりよほど良
い学校に入った」と枝雀さんに言われたそ
う。10年ほど前に自伝では米朝高校、
米朝大学卒と誇らしげに記す◆桂米朝時代
テレビの「ウイークエンダー」で茶の間の
人気者になった頃を懐かしく思い出す。古
典の人情話を次々手がけたが、高座で感極
まり泣くこともしばしば◆「泣きのざこば
がまた泣いた」と報じられたのは、米朝さ
んの長男で今の米団治さんの独演会でのこ
と。ゲストで出ると「ようやりましたな」
と言ったきり涙、涙。落語はせず、内弟子
時代に幼い米団治さんの子守をした昔話で
沸かせた◆ざこばは、大阪の魚市場「雑喉
場(ざこば)」にちなむ大名跡。その名のように人と
交わり、一門をまとめ弟子を育てた。「よ
うやった」と父と兄にねぎらわれ、感涙の
杯を干す 姿を思い浮かべる。 2024・6・14

神戸新聞、コラム正平調書き写し 5/6

英単語のスペルに「R」が含まれな
い月はカキを食べない方がいい、と
言われる。「R」がない5~8月は
マガキの産卵期で、身が瘦せておい
しくないからだ◆夏が旬のイワガキ
もあるが、「冬の食べ物」というイメージ
は根強い。だがあるニュースが印象を変え
るきっかけになるかもしれない◆2月下旬
に各地の生産者が味を競う「全国牡蛎(かき)ー1
グランプリー」が東京で初めて開かれ、生食
用部門で姫路市の水産会社「播磨灘」がグ
ランプリに輝いた。同社のカキは、品種改
良により産卵しないため、夏でもおいしい
「3倍体」という種類だった◆少し小ぶり
で身や貝柱を一口で食べられ、、甘い味わい
が特徴だ。海に張ったロープに付けたかご
で育てるため、比較的手軽に取り組めると
いう。朗報を追い風に生産力を高め、欧州
市場も視野に入れる◆今回、他の播州の産
地も全国に名をとどろかせた。生食用部門
は準グランプリもたつのと相生勢が占め、
加熱用部門の準グランプリもたつの市の水
産会社が受賞した◆年中食べられる強みに
味のお墨付きも得た「播磨灘」のカキを目
標に産地同士で味を競え合えば、きっと近
い将来、播州の海が日本一の定評を得られ
るはず。その頃には、カキの季節を気にす
る人もいなくなっているかも。2024・5・6

神戸新聞、コラム正平調書き写し 5/3

世界の理不尽と闘う女性たちを描くN
HKの朝ドラ「虎に翼」に、彼女は
出てくるだろうか。連合国軍総司令部
部(GHQ)で日本国憲法起草に関
わった、ベアテ・シロタ・ゴードン
さん◆22歳で憲法24条の男女平等のくだり
を担った。15歳まで日本で過ごし、服従を
強いられる女性の姿に驚いたという。GH
Qでは「憲法に男女平等を書かなければ、
日本は永久に変わらない」と訴えた◆「米
国の押しつけ憲法」の批判には「自分たち
の憲法よりいいものを贈った。それを押し
つけとは言いません」とピシャリ。そんな
彼女が「何より、日本人が求めていた」と
語ったのが憲法9条の平和条項だ◆戦後、
世界の支援やビジネスの現場で戦争をしな
い国のイメージが信用を高める。平和を愛
し、武器売買に手を染めない。それが日本
人◆この旗印が国民に問われることなく、
政府の意向で変わりつつある。防衛装備移
転三原則、次期戦闘機の第三国輸出解禁。
作家の澤地久枝さんは本紙に「内閣の閣議
決定が国の前途を決め、憲法は顧みられな
い」と書いた。若い世代と危うさを共有し
たいとも◆澤地さんは昭和一ケタの世代。
「大正もだんだん明治に似てガンコ」(川
上三太郎)。そして昭和も。ガンコに平和
憲法にこだわる先人に連なる。2024・5・3

神戸新聞、コラム正平調書き写し 5/2

通勤途中、中華料理店のシャッター
に1枚の張り紙を見つけた。〈閉店
のお知らせ 長きにわたるご支援、
ありがとうございました〉。また行
きたいと思っていたのに・・・と悔やん
でも、もう遅い◆定年退職のある勤め人と
違い、個人で身を立てる人の引き際には、
その人の人生観が宿る。歌手の橋幸夫さん
が「歌の馬力、声帯のつや」に自信がなく
なったと語り、80歳での引退を表明したと
きもそうだった◆その橋さんが先月「謝罪
会見」と銘打ち、引退を撤回した。昨年、
浅草で最終公演をした後の反響が凄かっ
たそうだ。青春をともに駆け抜けたファン
を捨てるのかと◆橋さんは第二の人生を思
い描いていたが、ファンあってのわが命だ
と改めて気づいたらしい。「だから、いく
つまで声が出るか挑戦したい」。のどと体
は大切に。そう心配しつつも、励まされた
人は多いだろう◆「僕は自由です。やらな
い自由もあるんです」。ユーモアを交えて
何度も "引退宣言„し、その度に撤回して
きた宮崎駿さんが、新作のアニメ映画で2
度目のアカデミー賞を受けたのは83歳。
まだまだ元気だ◆生涯現役を期待されるの
は何も有名人ばかりじゃない。あの中華の
店主も閉店を撤回しないかな。そんな人が
日本のあちこちにいるだろう。2024・5・2