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神戸新聞、コラム正平調書き写し

あの大きな揺れに襲われたとき、パ
ンツ一枚で逃げ出した。阪神・淡路
大震災の朝、イチローさんは神戸市
西区にあったプロ野球オリックス・
ブルーウエーブの寮にいた。これは
ただ事ではない。初めて命の危機を感じた
という◆ドラフト4位の4年目、色白で風
変わりな打法の華奢(きゃしゃ)な青年ー。当時はそん
な印象だったイチローさんが米国で野球殿
堂入りを果たした。残念ながら満票とはな
らなかったものの、アジア人初の快挙であ
る◆長らく「気難しい職人」というイメー
ジだったが、震災10年を前にインタビュー
したとき、はじけるような明るさとサービ
ス精神、人なつっこさに驚かされた。そこ
で語ってくれた言葉は、神戸への愛着と励
まし◆「一番何かを感じて成長する時期に
神戸にいた。今ある僕の人格や考え方は、
ほとんど神戸で作られたもの」「神戸は第
二の故郷。行くのではなく、帰る場所」だ
と◆それは今も変わらないようだ。日本で
野球殿堂入りした先週の会見でも震災30年
に触れ、「神戸は今も特別な場所」と語っ
ていた◆数々の金字塔を打ち立てた後は、
高校球児の指導に駆け回る。永遠の野球少
年の姿を見ていると、あの至言が浮かぶ。
「小さいことの積み重ねが、とんでもない
ところにいく、ただ一つの道」2025・1・23

神戸新聞、コラム正平調書き写し 末尾に我がコラム

図書館になく、店頭でもあまり見か
けないのに毎月、新聞に最新号の広
告が出る雑誌がいくつかある。なの
で、広告の内容を見て想像をたくま
しくすることがしばしば、その一つ
が「月刊住職」◆正月の特集を見ていく
とー。まず「人口減少でもお寺が不足して
いる実態」。ほかに「師僧の理不尽になぜ
弟子は抗(あらが)えないのか」。さらに「葬儀業界
の不公正取引の現状と法的疑念」。もしか
して、渾身(こんしん)の告発記事か◆お寺を通じて社
会に経済、事件とさまざまなものが見えそ
うで面白い。そういえば昨年末、東京の増
上寺に Pay  Pay (ペイペイ)でさい銭
が供えられるQRコードが設備され、話題
になった◆住職さんも宮司さんもご家族も
年末年始は大わらわで「働き方改革もどこ
吹く風」の声を聞く。一方、世間では9連
休が明けて昨日、仕事始めを迎えたところ
が多かった。初出勤の電車の中では「今年
もよろしく」のあいさつがあちこちで交わ
された◆俳人の桂信子にこんな句がある。
「九十の顔(かんぱせ)かこれ初鏡」。数
え年で90歳になった元旦、新年最初に鏡を
見たときの句という。孤独や覚悟を秘めつ
つ、老いを突き放し面白がる心が感じられ
る◆今年はどんな年になるか。面白がる精
神を忘れず向き合いたいもの。2025・1・7

我がコラム
4・50年程前、初詣のお賽銭に小切手ってのが有った、その時すごく衝撃的だったけど、今度は Pay  Pay 次から次ぎへと時代が変わりビックリする事ばかりで、神社仏閣の方としては何としても人出の多い正月に、参拝者はご利益を先に後払い、兎にも角にも、先手必勝というところかな?

神戸新聞、コラム正平調書き写し

たこたこあがれ、の歌声を聞くのも
そろそろかと思えば、聞こえるのは
タコタコ上がる、の大合唱である。
タコの値段がなんとマグロ超えで、
たこ焼き屋さんは悲鳴を上げている
という◆地物は不漁続きで、海外産は欧米
や中国の需要が増えて買い負け。円安に、
輸送費の上昇もある。ああ、これではもう
タコの八ちゃん、八方ふさがり、八本足を
お手上げだ◆タコがだめならイカ、という
分けにはいかぬ。イカだってあがってる。
オレンジもオリーブも、カカオもコーヒー
も高騰が続く。来年の主要各社の飲食料品
値上げは、既に約4千品目。背景には世界
的な気候変動や政情不安が有る◆まさに、
食料インフレ。稼ぐに追いつく貧乏なし、
とは言うけれど、値上げに勝つ賃上げへの
道はまだまだ遠い。働けど働けど、と不満
が社会にたまっていかないか、負の連鎖が
気がかりだ◆インフレという言葉は、長寿
漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」で
覚えた。たこに「インフレ日本円」と書く
とたちまち揚がり出すーというギャグに、
意味も分からずに笑っていたのは、半世紀
近い昔のこと◆次のお正月、たこになんと
書いてみよう。「イシバノミクス」と筆を
振るえど、地をはうばかりだと恐ろしい。
糸が切れるのだけは、ご勘弁。2024・12・15

神戸新聞、コラム正平調書き写し

広島に原爆が投下された直後の様子
を女性が語っている。「私たちはあ
の時何も話さなかったんです」。友
人と過ごした最初の夜も、上空を米
軍機が飛ぶのを見上げたときも、無
言だった◆「焼け跡で父親に会った時も二
言三言話しただけで、あとは何も話さなか
った」。都市は一瞬で廃墟となり、救護所
にはうめき声が満ちた。そして、無傷の者
は黙り込んだ。話す気力さえ奪われていた
と(井上恭介著「ヒロシマー壁に残された
伝言」)◆被爆者が語り始めたのはずっと
後のことだ。日本被団協が結成されたのは
戦後11年目。「今日までだまって、うつむ
いて、わかれわかれに生き残ってきた私た
ちが、もうだまっておれないでてをつなぎ
立ち上がろうと集まった大会なのです」と
宣言した◆きのうノーベル平和賞の授賞式
がノルウェーの首都オスロであった。熱線
と爆風、放射線で死んだ広島と長崎の何十
万の人、今も原爆症に苦しみながら全国で
生きる人はどんな思いで受賞スピーチを聞
いたろう◆その会場に、高校生平和大使4
人の姿もあった。被爆者の声を世界に伝え
る活動をしている被爆3世や4世の若者た
ちである◆バトンを受け取る。「私たちを
最後に」と訴える体験者の願いをつなぐ。
それは、私たちにもできる。2024・12・11

神戸新聞、コラム正平調書き写し

寺院の密度が高い大阪の天王寺区を
巡ると、門の掲示板に詩や格言、標
語などを掲げているのをよく見かけ
る◆中にこんな言葉を見つけた時は
「えっ」と驚いた。「どんなもので
も何かの役に立つんだ。たとえば、この
小石だって役に立っている。君もそうなん
だ。フェリーニ監督の名作「道」のセリ
フ、◆誰もが人生の主役、何より地域の貴重
な人材です。助け合ってまいりましょう。
全国を回り、そう訴えたのは「さわやか福
祉財団」会長の堀田力(つとむ)さん。兵庫各地でも
公演が催され、ユーモアたっぷりの話に触
れた方も多いだろう◆特捜検事としてロッ
キード事件などを手がけたが、ボランティ
アの伝道師のような活動の方が人々の印象
に残っているはず。さらに福祉、税制、教
育、災害。その人柄と知恵は、さまざまな
分野で引っ張りだこに◆米国の日本大使館
に出向した時のこと。「英語ができない息
子を地域の人が温かく迎えてくれた。助け
合いはいいなと身に染みた」。そして定年
を前に宮仕えをすぱっと辞めた◆堀田さん
の訃報を伝える記事に、董陶を受けた検察
関係者の言葉があった。「大事な局面を迎
えると、堀田さんならどう考えるだろうと
思った」。いろんな場所で同じことを思う
人がいる。今も、これからも。2024・12・6

神戸新聞、コラム正平調書き写し

日本の民話の一つに「三年寝太郎」
がある。3年間、ごろごろ寝てばか
りの男がある日むっくり起き上がる
と、水不足に悩む村の水利問題を解
決するーというあらすじはどこも同
じだが、全国にいくつもバリエーションが
ある◆その一つが山口県の厚狭(あさ)地区に伝わ
る物語だ。怠け者の息子が父に頼んで船を
作らせた。その船にたくさんのわらじを積
んで向かった先は佐渡金山。古いわらじと
新しいのを「ただで換えてやる」と触れ回
った◆40日後、息子は村に戻り、大きなお
けでわらじを洗うと、おけの底には砂金の
山が。そのお金で用水路を作り、村の荒れ
地は水田に変わったとさ。めでたし、めで
たし◆と、簡単にはいかないのが歴史問題
である。先日、佐渡金山であった全労働者
のための追悼行事で韓国側が参加を見合わ
せた◆もともと佐渡金山の世界文化遺産登
録に「強制労働被害の現場だ」と韓国側は
反対だった。その相違を話し合いで乗り越
えてきたのだが、根深い不信感は消えてい
ない。薄氷を踏む慎重さが日本にはあった
のか◆歴史の見方には両面があり、のどに
刺さったとげは簡単には抜けない。それで
もなんとか世界文化遺産の登録にこぎつけ
た。お互いが納得できる道はないものか。
時間をかけて向き合いたい。2024・11・27

神戸新聞、コラム正平調書き写し

戦後すぐに次々起きた、若者による
犯罪の一つに「日大ギャング事件」
がある。19歳の少年が恋人との駆け
落ち資金を稼ごうと、日大職員の給
与を強奪した。逮捕される時に言っ
たのが「オー、ミステーク!」◆今、ミス
テークを重ねて凶悪犯罪に加担してしまっ
た若者の後悔が報じられるのは、首都圏で
連続する強盗事件である。交流サイト(S
NS)を通して、安全で高額報酬をうたう
バイトに応募したら…◆個人情報を握られ
逃げたら殺すぞ、家族も無事ではいられな
いぞと脅された挙句、民家に押し入り、
人の命を奪ってしまった。最後は使い捨て
である◆逮捕者の中に、滞納した税金を
払うためと動機を供述している容疑者がい
るが、法を守る気があるのか、ないのか、
警察庁は闇バイトに応じた若者に対して、
責任を持って身の安全を守るので犯罪に手
を染める前に通報を、と呼びかける◆指示
役は通信アプリで、実行役に指令を伝えて
いる。現場にいないからか、手口が荒っぽ
い。カギがかかっていようがいまいが、お
かまいなしに窓をたたき割って侵入し、住
人を殴って蹴って、拉致して脅す◆強盗を
重ねる主人公の破滅を描いた映画のタイト
ルのごとく、犯罪者に「俺たちに明日はな
い」と痛感させる操作を望む。2024‣10‣23

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