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神戸新聞、コラム正平調書き写し

その小説の主人公は「一体日本人は
生きるということを知っているだろ
うか」と問いかける。小学校の門を
くぐると、一生懸命に学校時代を駆
け抜ける。その先には生活があると
思うからだ◆それで終わらない。職業につ
くと、それを成し遂げようとする。やはり
先に生活があると思うから。しかし主人公
は思う。現在に生活がなくては「生活はど
こにもないのである」と。この作品は明治
期に森鷗外(もりおうがい)が著した「青年」◆将来のため
勉強を頑張る。仕事に励む。生活を先送り
する生き方は明治から変わらない。とくに
学校時代に「現在」に重きを置くのはなか
なか難しい◆かつて思想家・武道家の内田
樹(たつる)さんが、中高生に向けたこんな文章を本
紙に寄せた。「どんな学問や仕事を選ぶに
しても『努力することそれ自体が楽しい』
ことを基準にしてください」◆やっている
と楽しいことを見つけてほしいと、内田さ
んは言う。勉強など楽しめないという声も
聞こえてきそうだ。でも探してみれば面白
いところもあるはず。部活や校内行事でも
いいだろう◆きょうから新年度。学校では
新しい学年が始まる。これからの1年はも
う二度と来ない。単に駆け抜けるだけでは
もったいない。それぞれの「現在」を、楽
しく輝いたものにしてほしい。2024・4・1