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神戸新聞、コラム正平調書き写し

「酒が入ると芸の話しかせん」。桂
米朝さんがラジオ番組「米朝よもや
ま噺」(ばなし)でそう評したのは弟子の桂枝
雀さんだ。例えば「サゲとは緊張の
緩和である」。うまいこと言うと師
が応じ一杯、また一杯◆付き合いながらじ
っと聞いていたのが、桂ざこばさん。何と
なく光景が目に浮かぶような。米朝さんを
父と慕い、枝雀さんを兄ちゃんと呼んだ。
そのざこばさんの訃報が届いた◆15歳で弟
子入りの際、「その辺の高校よりよほど良
い学校に入った」と枝雀さんに言われたそ
う。10年ほど前に自伝では米朝高校、
米朝大学卒と誇らしげに記す◆桂米朝時代
テレビの「ウイークエンダー」で茶の間の
人気者になった頃を懐かしく思い出す。古
典の人情話を次々手がけたが、高座で感極
まり泣くこともしばしば◆「泣きのざこば
がまた泣いた」と報じられたのは、米朝さ
んの長男で今の米団治さんの独演会でのこ
と。ゲストで出ると「ようやりましたな」
と言ったきり涙、涙。落語はせず、内弟子
時代に幼い米団治さんの子守をした昔話で
沸かせた◆ざこばは、大阪の魚市場「雑喉
場(ざこば)」にちなむ大名跡。その名のように人と
交わり、一門をまとめ弟子を育てた。「よ
うやった」と父と兄にねぎらわれ、感涙の
杯を干す 姿を思い浮かべる。 2024・6・14