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神戸新聞、コラム正平調書き写し

「正義は或(あ)る日突然逆転する。正義
は信じがたい」。終戦の体験でそう
骨身に染みたと、漫画家のやなせた
かしさんは自伝に書く。朝の NHK
連続テレビ小説「あんぱん」のセリ
フでも登場した◆戦後、やなせさんは考え
た。「逆転しない正義とは何か」。導き出
されたのは「献身と愛」。大げさなもので
なく、飢えた人がいれば一片のパンを差し
出すような。これが「アンパンマン」の原
点となる◆正義を振りかざす指導者によっ
て戦禍が広がる世界に、バチカンから平和
のメッセージが発せられた。「謙虚で忍耐
強い、武器のない平和、武器を取り除く平
和を」。鳴り響く鐘の音とともに◆大聖堂
に姿を現した新ローマ教皇レオ14世の演説
である。和約によると平和という言葉を合
わせて10回、唱えている、紛争解決に向け
て、対話の橋渡し役を務める決意を見る思
いだ◆その様子を伝える記事のそばに「正
義」の二文字が。「正義と公正はわれわれ
の側に」。第2次大戦の対ドイツ戦勝80年
の式典で、ロシアのプーチン大統領が唱え
た。軍事パレードをともなう光景は平和か
ら遠い◆新教皇が長年活動し、国籍も得た
南米ペルーの人々の親愛の言葉から。「彼
は長靴を履いて泥の中を進むような人」。
献身と愛の人、と受け取る。 2025・5・13