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神戸新聞、正平調書き写し

春の到来を待ちわびている人なら、
それぞれの“目印〟を持っているだ
ろう。わが家の場合は鉢植えの木瓜(ぼけ)
である。一日に少ししか日が当たら
ない場所にあるから、育ちはゆっく
りマイペース◆それでも固く縮んでいた茶
色のつぼみが急にグリーンピースのような
淡い緑にふくらんだかと思うと、先日、朱
色の花が一気に開いた。ああ、今年もお変
わりなく。自然の摂理に従うまじめさに感
謝の念がわく◆播磨の海沿いに暮らす人な
らイカナゴのシンコ(稚魚)を炊く甘辛い
香りが春を告げる印ではなかろうか。鼻先
につんと蘇(よみがえ)る◆きのうの本紙朝刊を読んで
悲しい気持ちになった。1面トップは「淡
路島ノリ5500万枚廃棄」、その下には
「シンコ不漁『最も厳しい』」。春を迎え
る高揚感に水を差されたような。収穫の最
盛期だったノリ廃棄の原因は、漂流してい
た黒い油の塊だ。生産者の無念を思うと胸
がはりさける◆シンコの不漁予測は8年連
続。例年なら2月末ごろに解禁されるシン
コ漁の短縮は確実だろう。「きれいな海」
から栄養豊富な「豊かな海」へ、地道な努
力はまだ途上◆〈くぎに炊く祖母の大鍋春
来たる〉(阿曽宏之)。ふるさとを離れた
子や孫、全国の知人に送る人は多い。待ち
わびている人が今年もきっと。2024・2・21