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神戸新聞、コラム正平調書き写し

日本の民話の一つに「三年寝太郎」
がある。3年間、ごろごろ寝てばか
りの男がある日むっくり起き上がる
と、水不足に悩む村の水利問題を解
決するーというあらすじはどこも同
じだが、全国にいくつもバリエーションが
ある◆その一つが山口県の厚狭(あさ)地区に伝わ
る物語だ。怠け者の息子が父に頼んで船を
作らせた。その船にたくさんのわらじを積
んで向かった先は佐渡金山。古いわらじと
新しいのを「ただで換えてやる」と触れ回
った◆40日後、息子は村に戻り、大きなお
けでわらじを洗うと、おけの底には砂金の
山が。そのお金で用水路を作り、村の荒れ
地は水田に変わったとさ。めでたし、めで
たし◆と、簡単にはいかないのが歴史問題
である。先日、佐渡金山であった全労働者
のための追悼行事で韓国側が参加を見合わ
せた◆もともと佐渡金山の世界文化遺産登
録に「強制労働被害の現場だ」と韓国側は
反対だった。その相違を話し合いで乗り越
えてきたのだが、根深い不信感は消えてい
ない。薄氷を踏む慎重さが日本にはあった
のか◆歴史の見方には両面があり、のどに
刺さったとげは簡単には抜けない。それで
もなんとか世界文化遺産の登録にこぎつけ
た。お互いが納得できる道はないものか。
時間をかけて向き合いたい。2024・11・27